・ツール・ド・フランス入門(歴史と栄光の向こう側)

 明日から世界最大の自転車レース、ツール・ド・フランスが始まります。一応ロードレースファンの端くれとして注目してます。ツール大好き♪でも日本で注目してる人の少なさには、マジで泣けてくるな。サッカーワールドカップ、オリンピックと並ぶ世界3大スポーツイベントとか言われてっけど、どう考えてもそんなの嘘だろ(笑)。
 今年のグランデパール(スタート地点)はイギリス、ロンドンのトラファルガー広場。そこを7月7日にスタートして、ドーバー海峡を電車で超えて(笑)、ベルギーをちょっとだけかすめ、フランス各地を転戦し、アルプスを越え、ピレネーを越え、途中休日も挟んで、約3週間かけて7月29日のゴール、パリのシャンゼリゼを目指します。今日はこの愛しのツール・ド・フランスについて考えてみました。


 で、ツールを語る上で、どうしても外せないのがドーピング(薬物摂取)問題。いきなりドーピングから語るのもどうかと思いますが、ツールに注目するとドーピングから目をそむけることなんてできない。だから許して。
 ちなみに自転車競技でのドーピングの歴史は古く、1886年にはすでにボルドー〜パリ間のレースで、イギリス選手がカフェインの過剰摂取で死亡している。ツールドフランスが初めて開催されたのが1903年、ドーピングという言葉が初めて辞書に載ったのは1889年なので、それよりも早い(笑)。つまりドーピングは、自転車レースの始まりと共にあったということです。
 ツールでも、1955年には多数の選手のアンフェタミン(興奮剤)使用が発覚している。アンフェタミン覚醒剤の一種で、飲むと疲れを忘れさせてくれるというもの。ルイゾン・ボベやファウスト・コッピが活躍していた古き良き時代にも、すでにドーピングは花盛りだったわけですね(涙)。1967年にはモン・ヴァントゥー(ツールで有名な峠)の上り坂でアンフェタミンを使用していたトム・シンプソンが熱中症で死亡するといった事故も起きている。薬のせいで自分が熱中症だということがわからなかったらしい(涙)。しかしその後もドーピングがなくなることはなく、むしろステロイド(筋肉増強)や、エリスロポエチン(赤血球増加)など、どんどんと進化していった。


 そして事件は起こる。1998年にフェスティナチームの車の中から大量のエリスロポエチン(EPO)が発見され、チームはその年の大会から追放されるという事態に発展(フェスティナ事件)。そのチームがスター選手ぞろいだったこともあり、またその後に暴露本などが出版されたこともあって、この事件はフランス全体を巻き込む大スキャンダルになってしまう。この自転車レース界の組織ぐるみのドーピングに、最初はこの問題に及び腰だったUCI(国際自転車競技連合)もやっと重い腰を上げ、以後ドーピング撲滅に本気で取り組む事となる。その時歴史が動いた(笑)。
 これにより1998年のツール個人総合優勝を飾ったイタリアの人気者、マルコ・パンターニをはじめ、デービット・ミラーやロベルト・エラスなど数々の著名なレーサー達が次々にドーピング検査で摘発される事となる。
 そして去年、2006年のツール直前には、通称オペラシオン・プエルトと呼ばれる、スペイン人の医師がドーピング容疑で逮捕される事件が発生し、この医師と関係があったとされる50名ちかくのレーサーの名前が公表される。結果、ツール主催者はここに名前の挙がった選手の出場を拒否、それにより優勝候補と目されていたヤン・ウルリッヒイヴァン・バッソといった選手が出場できなくなってしまう。そしてクリーンになったはずの2006年の大会で優勝したフロイド・ランディスは、にもかかわらず、その後のドーピング検査で陽性反応が出たため、優勝取消しとなってしまう。


 もうねー、グダグダですわ。なにこの果てしのないいたちごっこ。どんだけドーピングしてんだよ。テンション下がるっつーの。近年ヨーロッパでもツールの人気が下がっているという事ですが、そらーそうだろ。優勝したけどインチキでしたとか、アホかと。応援してた人気選手がドーピングで出場できませんじゃ、がっかりするっつーの。こんだけ何度も騙されたら、例えレースで勝ったとしても、その優勝はまがい物なんじゃないかと、疑いたくもなるよね。


 ちなみにEPOという薬物、もともと体内で生成される物質のため、判別が大変難しい。赤血球の濃さ(ヘマトクリット値)で判断するしかない。しかしその濃さにも個人差があり、運動したり、高地に住んだりするだけで値がコロコロ変わる。つまり選手がよっぽどヘタをかまさないかぎり、摘発されることは少ない。
 だから血液検査してもドーピングしてるかどうか、あんまりわかんないんだよね。ばれる確率が少なくて、その効果は絶大とくれば、勝利の栄光を求める選手なら試してみたくなる気持ちもわかる。そしてド―ピングをしている選手も、していない選手も、同様にこう答える。「自分はドーピングをしたことはない」と。
 そしてこのドーピングが発見しづらい故に、UCI魔女狩りのようなことを続けている。単に疑わしいというだけで、選手を片っ端から出場停止にしている。たぶん冤罪も発生しているかもしれない。そしてそれによって選手もUCIも両方とも傷ついている。なんせ人気がた落ちで収入減ってるしね。どう見ても負のスパイラルに陥っている。


 今のツール・ド・フランスはそんな感じです。素直に優勝者を祝福できない感じ。懲りもせずに信じたら、その度に裏切られている感じ。それでもこのドーピング撲滅の努力を、自分としては応援していきたい。この多少無駄な努力を。ドーピングをしていない潔白な者だけが、本当の優勝の栄光をつかみ取れるのだという風にしてほしいと願う。
 とにかく日本人は、ツール・ド・フランスをもっと知るべきだと思います。そしてスポーツがどれだけドーピングまみれなのか、目をそむけずに直視して欲しい。たとえ知らないほうが幸せだったとしても。ツール・ド・フランスは人間の欲望と崇高な理念がぶつかり合う近代スポーツの祭典です。


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