・しょんぼりサラリーマン日記(あるいは山月記)

 昨日、痴漢に間違われた。痴漢ていうか暴漢?でね、事の顛末はというと、昨日も残業を終えた会社帰り「あーあ、もうすっかり夏は終ったなぁ・・」なんつって、終わった夏に思いを馳せつつ、「はぁ・・薄着の季節ももうすぐ終わりか・・」と、一人さみしく溜め息ついて、家路を急いでいたわけです。したらね、後ろから「カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ・・」ってそりゃーもうヒールの音を高らかに、なんなら鬼気迫る勢いで、後ろからピッタリついてくる人がいるわけですよ。
 自分もけっこう、歩くスピードは早い方だと思うんだけど、後ろをピッタリマークされてんの。最初はまぁ「うっとーしーなぁ・・」ぐらいの感想だったんだけど、それが5分ぐらいつづいて、カツカツ響くヒールの音が、だんだん耳障りになってきて、そしたらだんだん腹が立ってきて、家までは遠回りになるんだけど、脇道に曲がったわけですよ。あんまりうざいんで。道変えようと思って。


 したら、その人も同じ道を曲がったわけ。そんでまたついてくるわけ。正直イラッと来た。できれば「ついてくんなよ!」ってキレてやりたかった。でも自分も一応、常識ある社会人なので、そんなことはしない。とはいえこれじゃ、道を曲がった意味がないので、元来た道に戻ろうと思ったわけです。でね、クルってターンして振り向いたわけです。
 したら、後ろからついてきてたその人が、ガッ・・っていきなり急停止した。「えっ?」って釣られて、こっちまでビクッってなった。「なんだろう?」って見てみたら、ばっちり目が合ってしまった。なんかね、トラににらまれたシカみたいな目をしてた。一瞬走る緊張・・・・・でも自分もすでに振り返った後だし、他にどうすることも出来ないので、「あなたには興味がありませんよ・・」的な感じで、目をそらしつつ一歩を踏み出したのね。その瞬間、あろうことか彼女も即座にきびすを返してダッ・・っと、逃げだした。


 「えっ?・・・ちょ・・・・まっ・・・・・」ってなった。・・・えっと、なに?・・・もしかして、痴漢と間違われたって、そういうこと?いやいや、別にそんなつもりは全然ねぇし?どう考えても、100パー無実だし。なんなら走って追いかけて、ちゃんと誤解を解こうかとも思ったけど、どう説明すればいいのかわからないのでやめた。んで、その場に一人ぽつんと残された自分は、さみしい気持ちのカタマリで、雲に隠れてぼやけた十六夜の月を一人で見上げて、ちょっと涙があふれそうになった。たぶんその瞬間の自分は、間違いなく世界で一番しょんぼりしたサラリーマンだったと断言できる。
 その夜、真っ暗な部屋で横になって、天井を見上げつつ考えた。「シカと仲良くなりたいトラは、一体どうすればいいのだろう?」と。んで、あれこれ考えて、けっきょく答えが出ないまま眠ってしまい、朝になったらコロッとそんな事はどーでもいい気分になって、元気に仕事に出かけたのでした。おしまい。


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